○NPO法人マニフェスト評価機構第3回公開シンポジウム

「分権時代のローカルマニフェスト〜統一地方選で問われるもの〜」

 

07年3月24日(土) 1330分〜16

東洋大学白山キャンパス井上記念館

パネリスト

竹中平蔵 慶應義塾大学教授(前総務大臣)

北川正恭 マニフェスト評価機構顧問・早稲田大学教授

中田 宏 横浜市長

福嶋浩彦 前千葉県我孫子市長

コーディネータ

松原 聡 マニフェスト評価機構理事長・東洋大学教授

 

 

1.シンポジウムの概要(文責は内田にあります)

 

北川 安倍政権は小泉内閣のポストとして、まだ国民の審判を得ていない。総選挙で国民

  の審判を仰ぐべきだ。国民は正しい判断をするだろう。

   道州制には賛成だ。国会議員の観念論で、この議論が後回しにされることが心配だ。

   地方制度改革で「許可」から「協議」に変わっても、「運用」でそのままとなる恐れ

  がある。また地方の側も、「国まかせが楽」という声が多い。

   これらのことから、明確な国民の「信」を問うのが正しいことだ。

中田 本日、会場到着が遅れたが、羽田空港では着陸13機待ちという大混雑であった。

   これは大問題で、羽田の整備の遅れは国のせいである。東京では、アジアの会議は

  行われない。ソウルや上海が選ばれる。空港整備が遅れているからである。

   国へ望むことは、起債の自由化を進めてほしいことプラス自治体格付けにGOサイ

  ンを出してほしいことだ。このほど横浜市はスタンダードプアーズから格付けを取得。

  結果は「AAマイナスポジティブ」だった。これは「日本国」の格付けと同じだ。横

  浜市は「日本がつぶれない限り大丈夫」ということか。

   地方には「国の庇護」を期待する感覚の首長が多い。これからは「メッセージプラ

 ス仕組み」で打ち出してもらいたい。意味するところは、「これからは自治体の破綻も

 ある。破綻のための破綻法制も整備する」という仕組みづくりと、「よく考えなければ

 自治体はつぶれる」というメッセージを地方に届けることだ。

福嶋 我孫子市では、自立支援法施行に際し、事業者指定権限を県でなく市にすべきだと、

  千葉県に訴えた。結果、千葉県から「他の市町にも打診する」との回答であったが、

  我孫子市以外の市町からは「とんでもない。やっかいな作業が市町から県に行ったと

  喜んでいるのに、まっぴらだ」というような内容で、結局我孫子市だけが引き受ける

  こととなった。これが実態だ。

   起債が許可から協議になっても実態は許可制と同じだ。いや、ますます協議制では

  時間がかかるようになっただけだ。協議とはいえ、国は「不同意」とも言えるわけだ。

   一般に、「人の許可を受けなければ借金ができない」という状況下では、「なるべく

  多く借金しよう」と努めるようになるのが常だ。自分で考え、判断をして借金する状

  況下なら、「半分でいい」と考えるようになるものだ。

竹中 マニフェスト選挙は進んではいるが、マニフェストを正しく評価する人がいない。

  これまでにまともなマニフェストを出した政党はない。

   先ほどの羽田空港のことだが、日本にはゲートウェイの機能が重要だ。成田は何と

  か果たしているが、実は羽田整備は役人が「やる」と言えばできることで、簡単な改

  革なのだ。

   起債のことにしても、自治体から「即時、自由化せよ」と申し入れればいい。と、

  言いたいところだが、実際は地方はホンネとタテマエをうまく使い分けている。

   交付税制度というものは、とてもうまくできている。耐震偽装の案件でも、交付税

  でうまく処理した経緯がある。交付税とはまことに便利な「内ポケット」だ。「えもい

  われぬ」不思議な仕組みだ。

   問題はソリューションだ。それを明確に出すことが課題。そこにマニフェストの意

  義もある。

   「分権」「分権」と言っても、「受け皿」がイヤイヤであれば進まない。

福嶋 マニフェストは、数値目標も大事だが、地域経営の哲学を示すことも大切だ。

   公共を担う民間といかにうまく協働するかが大切だ。その中で自治体行政の果たす

   役割は、@許認可事務など、公権力行使 A民間力を下支え、コーディネートする

  こと、となる。

   公共を小さくすることではない。公共はますます大きくなる。また大きくする必要

  がある。が、政府、地方政府、市役所は小さくすること。「大きな公共、小さな地方政

  府」を目指すことだ。

   地域コミュニティが公共を支えていけるようにしていくのが、行政の仕事だ。

   我孫子市では1100の公共事業を民営化提案した。これまでは民営化といっても

  官の発想と判断で官が決めて、委託してきた。これを民からの提案型にした。行政の

  発想でなく民間の発想で「民のほうがうまくやる」と、民間の側から行政の仕事を奪

  ってしまう、という考え方だ。

   昨年は79の提案が寄せられ、うち34件を採用した。

   このことは、いわゆる「補完性の原理」のスタートを市(市→県→国)でなく、市

  民(市民→市→県→国)に置くことである。

   民間にできることはすべて民間がやる。民でできないことを市が、市ができないこ

  とを県が、県ができないことを国がやる。

   これと異なり、本来行政がやるべきことを民間にやらせている、という発想がある

  が、原則はそうではない。

   官の仕事に「市民感覚」を持たせ、磨くことが大事だ。そのいちばん確実な方法は、

  すべての官の仕事に民が関わることだ。我孫子市では、市の補助金を3年に一度全廃、

  再応募し、市民による審査を経ている。市職員採用の試験委員にホテル支配人など、

  民間委員を置いている。補助金とか職員採用とか、いわば「聖域」と呼ばれるところ

  にこそ、市民に介入してもらうことだ。

   市民感覚を持つ市役所と、公共感覚を持つ市民が協働するのだ。

中田 国から地方への分権もあれば、役所の中の分権もある。

   横浜では役所が「関内」にあり、国における「霞ヶ関」が横浜では「関内」だ。「関

  内にお伺いをたてる」とかいう。

   私は横浜市で庁内分権をやってきた。その延長に、「自立した市民」の実現がある。

   消極的な言い方をするなら、新しいことをするのに新しい課、新しい職員、新しい

  予算で対応、というのはもう無理である。

   積極的に言うと、市民満足度を高めるためには、自ら参加するしかないのだ。

   戦後、予防衛生行政がまずあり、それから衣食住政策があった。これは「食える食

  えない」の段階だ。これからは、「食える食えない」ではない。これからは「生き方」

  が行政の課題だ。満足度を高めるには、自分でできることは自分ですることが大切だ。

   江戸時代にだって「介護」ということはあったが、幕府が介護政策をとったわけで

  はない。今の社会問題として、公共が担当することになったが、市民それぞれのニー

  ズを満たすことができるようにならねばならない。それには自立した市、自立した市

  民が必要だ。

   例えば横浜市では、消火器を買うのに3000円の補助金があった。消火器を普及

  させる時代に必要だった制度なので、やめた。交通機関の敬老シルバーパスがあり、

  70歳以上の方は一律、まったくバスに乗らない方、運転手つきの車を使っている方

  にも一律支給で65億円を要していた。寝たきりの方など、使いたくても使えない方

  もいる。そこで「使いたい人が申し込む」「所得高い人は有料」とした。またごみ分別

  は都会では不可能とされていたが15分別を実施。これによりごみを35%削減に成

  功。これを換算すれば35%は資源化できたということであり、焼却工場の稼働を止

  めることにより、30億円の経済効果があった。自分で分別することにすれば、品物

  を買うときに自分で考えるようになる。包装の少ないものを買う、詰め替えできるも

  のを買う、など。

   また公務員の特殊勤務手当も53あったが一旦全廃。その後妥当なものを3つ復活

  させた。例えばヘリコプター手当て。これがないと民間事業者の方に操縦者が行って

  しまい、職員を確保できないから。また通勤定期券は1月単位から半年単位にしても

  らった。それで私は職員から裁判を起こされ、被告になっている。私は市長になって

  から14件裁判を起こされ、被告になった。昇任昇給、人事異動のあり方(5年で強

  制配置転換)、出張手当(横浜から東京に「出張」すると3000円。廃止)など改善

  を行った。目の前にある不条理を解くことから、順番にやっていくことだ。

北川 マニフェストを提言してから4年が経過した。今では「標準装備」になった。98%

  の首長が書くようになった。

   マニフェストに必要なのは○経営理念、○経営方針、○アクションプログラムだ。

   これまで仙台市長選挙、宮城県知事選挙、総選挙でアンケート調査を行ったところ、

  主権者は「政策で選ぶ」傾向にあることが明らかになった。「マニフェストで選んだ」

  という回答が「人柄や地縁で選んだ」の回答を抜いた。

   マニフェストは都会よりも郡部のほうがよく読まれていることも明らかとなった。

  理由は、それが生活に密着しており、首長の「あれかこれか」の選択が直接生活に影

  響するからである。この点では、政治家の方が意識が遅れている。まだ「選挙はやっ

  ぱり地盤、カンバン、かばんだよ」と言っている。

   東こくばる氏の選挙は、たけし軍団で大騒ぎするのかと思ったらマニフェストで真

  剣に戦った。またマニフェストに加えて4回の公開討論会もよかった。

   恵庭市の中島市長は告示46日前に出馬表明。初めの10日間は一切外回りなどせ

  ず、こもってマニフェストを考えた。

   システムやプロセスを変えていかないといかない。書いたほうがトク、となるよう

  に。それでこそ民主主義の登場となる。いい流れとなる。

   そこで投票率はどうしても上げなければならない。日本では「20歳になって急に」

  選挙に行け、となる。そうでなく18歳から、投票所に行くこと、by the people の

  意識を植え付けないといけない。

 

(ここからは別紙マニフェスト資料に沿って討論)

松原 評価機構が作成した「ローカルマニフェスト作成指針」を解説。

北川 今回の都知事選挙に立候補している主要4名が出したマニフェストについて、表に

  沿って検討、評価。

(続けて他のパネラーからも意見あり)

  ・「2000億円必要」とあるが、その積算が示されてない。

  ・数値ない人がいる。数値はあるが裏づけがない人がいる。個々の数値はあるがトー

   タルが示されてない人がいる。

  ・期限を示しているのがよい点だ。「2年以内に」「ただちに」など。

北川 マニフェストは進化する。恵庭市長のマニフェストはカラー、絵本だ。主権者に「読

  んでください」という姿勢、これが大事だ。佐賀県知事選挙ではアウトカム指標から

  インプットへの流れが示されている。

   「あの人は人柄がいいから」「あの団体の人だから」という選択を変えていく必要が

  ある。「脳から汗が出るほど」考える人が出てもらわないといけない。

中田 1回目は「とりあえず出してます」で評価された。今回の選挙が2回目となる。中

  身が問われることになる。

   その点、今回公選法改正で配布が可能となったが、「A4で1枚もの」で30万枚、

  というのではまだまだダメだ。A4サイズ1枚なら、スーパーのチラシよりも小さい。

  また枚数は人口比などにしてもらわないと。この改正は付け焼刃的で後追い的。大欠

  陥を持っている。

   しかし前回の横浜市長選では、これすらもなかったわけだ。ともかく配れなかった。

  そればかりか、「確認団体」が作ったチラシのみ配れるが、「名前は書いてはいけない、

  写真もダメ、似顔絵は似ていてはいけない」…。

北川 ここにおられる(中田、福嶋)両氏は、本人自体がマニフェストだ。

中田 約束したことを行政の目標にしていくことだ。

福嶋 マニフェストに数値目標も必要だが、まず「どんな地域を創るか」を示せないとい

  けない。その具体策として「どんなことをやるのか」が示されることだ。例えば「共

  生型グループホームを200箇所作る」と書くとする。いつまでに、どの財源で、を示

  すことは必要だが、「それをやったらどうなるのか」を示すことだ。やること自体の評

  価が課題だ。

   自立した市民の「市民力」とは、違う意見の市民同士が、互いに議論し対話して、

  合意を生み出す力だ。これができない限り、いくら徹底して参加していっても、永遠

  に陳情政治だ。

   自分の利益、自分の団体利益になる候補者を選ぶ、という基準ではダメだ。

   地域経営のできる人を選ぶべきだ。

北川 A4チラシ1枚ではあるが一応の進歩ではある。これからは、

  ○選挙期間はHPも動かせないのは改正すべきだ。

  ○公開討論会の手法を用いるべきだ。

  ○マスコミ報道に制限を加えているのは、日本だけだ。

   ぜひ改正を進めてもらいたい。

   公務員はマジメだ。市職員は市長がマニフェストを真剣に書くようになれば「これ

  は本気だ」と思い、言うことを聞くようになるものだ。

   トップの言うことを聞くのが民主主義だ。

 
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2.感想

 

 感想というより復習のようになりますが、今回のシンポジウムで印象深かった言葉を再掲します。

○市民力とは、違う意見の市民同士が、互いに議論し対話して、合意を生み出す力であ

 る。

 これを形成しない限り、いくら市民参加の姿があっても、永遠に陳情政治だ。

 

○マニフェストは数値や期限も大事だが経営理念を示すことが重要。掲げる施策を「実

 現したらどんなふうになるのか」を示すことで、施策それ自体を評価することができ

 る。理念を掲げてから手段を掲げる。

 

○市民満足度を高めるには自ら参加するしかない。

 

いらぬ心配ではありますが、今回のシンポジウムに参加することを決めてから、このパネラーの面々を眺めると、「固定客」化して、マニフェスト運動は面的広がりを見せていないのではないか、と考えておりました。

実際、我孫子市が県にモノ申したけれども賛同する市町は千葉県下にひとつもなかった、という話や、交付税というメカニズムを「絶妙な内ポケット」と表現した竹中氏の「ホンネとタテマエを自治体首長はうまく使い分けている」といった発言にうなづきながら、心当たりがないどころか大アリで、心配にさらに拍車がかかりました。

一方北川氏によるアンケート調査の報告で、なるほどマニフェストは確実に浸透していっていることが証明されました。しかし現実の私たちの地域とその周辺を見渡すとき、「果たしてほんとうにそうか」という思いも払拭できません。

過日の3月定例会での代表質問で、私(内田)は市長に対し、マニフェストへの考えを尋ねました。答弁は「総合計画そのものが私のマニフェストだ」と、これはもう再質問のしようがないような名答弁をいただきました。たしかにこれ以上の答弁はないでしょう。が、キツネにつままれたような心地でもあります。

出張の道中、車窓にも丸亀市民の皆さんの顔が浮かんでは消えます。

この3月だけでも私はいくつかの、市内NPO法人の活躍ぶりを拝見しました。まことにたくましく、心強い限りです。が、まだまだ面的に「活発」というには至りません。

これらの心ある市民の動きが市政に関わり、市政を動かしていくようなレベルを、私は大きく展望し、まずは足元、行政の施策から手を入れていかなくてはならない、そのことをあらためて感じます。

新年度から、これまで企画部門で担当していたNPOなど市民活動が生活課に移され、コミュニティや自治会管轄といっしょになります。これはまず一歩前進と思いますが、何といっても問題は中身です。

市民を育てることが役所の仕事。

戦後の予防衛生行政から衣食住、「食えるか食えないか」行政からステージは「生き方」、言い換えれば「人生の質」に対して行政が仕事をする時代に、とはまさしく至言。

突然、妙な譬えをしますが、野球は9回。

リリーフで登板するピッチャーはそれぞれ、勝っている場面、ピンチの場面、押さえる場面等々、適材が適所に配置されます。私も今春で議員として8年の年月が終わりました。早くも9年目のベテランの域に突入です。この場面、ここで登板する議員に求められるミッションは何か。個別の課題を数えればきりがありませんが、まずは大局、「市民を育てる市役所」へ、声をあげていくのが私の仕事と再確認して、総合計画スタートの新年度に臨みたいと思います。

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